混声合唱組曲「愛と祈りの世界へと」


混声合唱組曲「愛と祈りの世界へと」(全6楽章)

  1. あの日
  2. 消えた故郷
  3. ウソツキ
  4. さよなら
  5. 愛と祈りの世界へと
  6. 今、私にできること

作詩:立春 暦

作曲:SEIGI

編成:混声4部合唱+ピアノ(div.あり)*第6楽章は無伴奏(ピアノ伴奏版も収録)

演奏時間:5分20秒/3分55秒/3分15秒/3分45秒/5分50秒/2分 *第6楽章のピアノ伴奏版は3分05秒(約24分05秒)

作曲年:2012年3月~2012年9月

 

初演データ

2015年6月28日/三鷹市芸術文化センター 風のホール

あひる合唱団第2回演奏会

合唱:あひる合唱団

指揮:木下翔真

ピアノ:林田古都里

 

2011年に制作した「今、私にできること」を軸に、翌2012年に組曲として作曲・再構成。

3.11に起こった東日本大震災を、一人の子供の目線から描いた組曲になっております。

2015年にあひる合唱団の皆様により全曲初演されました。

*作曲者立会いのもと、初演されました。


Score

品番:SSP-G0018

出版:SSP出版

販売形態:製本版(無線綴じ)

 

*2024年に発売予定です。今しばらくお待ちください。


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作曲者からのメッセージ

2011年3月11日に起きた、あの東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)は、私達に多大なる被害をもたらしました。地震と津波による直接的、物理的な被害もそうですが、あの東北での津波の映像をリアルタイムで見た時は、心に深い精神的なダメージを負った方も多かったのではないでしょうか。私もその中の一人です。

さて、その震災に向けてのメッセージソングとして、まず2011年5月に「今、私にできること」が制作されました。ただ単に被災地の方々へ向けた曲、例えば「元気を出そう」とか「励まそう」などと言った安易なものは作りたくはありませんでした。そういうものを作ろうとすると、私はどうしても気が引けてしまうんですね。なので、この曲では「今、自分自身に何ができるのか」という問いを投げかける曲にしました。誰かに伝えるというよりかは、内面的な祈りの世界を表現しようとしたのです。

あの日以来、度重なる余震という恐怖が続く中、私は全く作曲に集中できずにいました。いつも遅筆な私ですが、ある日ふと自然に詩(✳︎1)と旋律が頭の中に浮かび、たった1日で完成させました。厳密に言うと、まず無伴奏混声4部版を作曲。約2~3時間で書き下ろしました。これには私も驚いたのですが、それまで思うように作曲に集中できなかった分、素直に自分の感情を表現することができたのではないかと思います。

翌年である2012年に、この曲をエピローグにおいた組曲にしようと決断し、再度新たに5編の詩を書き下しました。皆さんも、まずはじっくり詩の世界に浸ってみてください。私には曲を書くことぐらいしかできないけれど、私の音楽で少しでも皆さんの心が癒せたら幸いです。

 

この組曲は、あの3.11の日を一人の子供の目線から描いたものです。衝撃的な描写がありますが、「音楽」として、そしてこの出来事を後世に残すため「風化させない」ことを強く望んでおります。第6楽章「今、私にできること」に関して、収載されているのはピアノ伴奏版の譜面ですが、無伴奏でも演奏が可能です。例えば、無伴奏版を組曲のエピローグとし、アンコールでピアノ伴奏版を演奏するなど、いろいろなアプローチが可能だと思います。是非、全国の混声合唱団の皆様に歌って頂ければと思います。この詩には、愛と祈りが込められています。詩の意味をしっかりと噛みしめながら歌ってください。きっと多くの方々に勇気と希望を与えてくれることでしょう。

最後になりましたが、被災地の一日も早い復旧と復興を心よりお祈り申し上げます。この祈りが皆様の心に届きますように…。

(✳︎1) 作詩者の立春 暦は私のペンネームです。

2013年10月

SEIGI

楽曲解説

  • 1.あの日
    朝の日常風景を歌った明るく爽やかな曲調です。声の音色も詩の内容に応じて変えましょう。17小節、19小節にある女声のポルタメントは窓を開けた時の風の音をイメージしています。41小節からはテンポが速くなりますが、決して慌てないように。53小節の「おいしいな」は表情豊かに、子どもになりきって。94小節の男声のヴォカリーズは感傷的に。107小節からの旋律は特に大切に演奏してほしいところです。ピアノパートは「故郷」の旋律が奏でられます。合唱もそれに寄り添うように歌いましょう。128小節の「だけど」から曲調をガラッと一変して、ひっそりと歌ってほしいと思います。

  • 2.消えた故郷
    3.11の地震、津波、人々の叫びが、冒頭から衝撃的なシーンとして描写されています。一瞬で聴いている人の心を掴んでください。実をいうと、第一稿の冒頭のピアノパートは緊急地震速報のメロディでした。しかし、著作権の都合でやむを得ず変更を余儀なくされ、代わりにとても緊張感のある減七の和音(ディミニッシュコード)を取り入れています。この曲はテンポや拍子、調性がめまぐるしく変わりますので、細部に至るまで譜面を確認してください。102小節のMeno mossoは、心から訴えるように。作曲者としては、芯のある声を望んでいます。

  • 3.ウソツキ
    この組曲の中では一番テンポが速い曲です。4分の5拍子のリズムを生かして軽快に。しかし言葉が転ばないように注意。自分の中でしっかりカウントしましょう。終始ある「ウソツキ」という言葉に恨みや辛さ、哀しみを込めて。少し子音を立ててみるとよいかと思います。47小節からは主人公の心の声を表現しています。音色を変えましょう。69小節の「神様なんてどこにもいないじゃないか」で今までの思いが吐露されます。79小節の「ウソツキ」は、息をたくさん使って、ささやくように。全パートで言うように書かれていますが、もしかしたらソロで言ってみても演奏効果があるかもしれませんね。最後のピアノの打撃音は、私のイメージでは「怒り」を表しています。左手で握り拳をつくり、一気に振り下ろしてドンッ!と打鍵してください。
     
  • 4.さよなら
    大好きな両親、友達、そして故郷に別れを告げる。決別の曲です。冒頭のニ長調のハーモニーは美しく響かせましょう。9小節、まるで口笛のような旋律をヴォカリーズで歌います。このフレーズは私も気に入っています。25小節~34小節は男声三部合唱になります。独特な響きを大切に。49小節からの変ホ長調は冒頭の再現ですが、調性が違うことを念頭において、ソプラノの旋律を特に際立たせましょう。64小節の「帰ってこれますように」は表情豊かに。「ように」の3連符は、気をつけないと16分音符に聞こえる可能性があるので、若干ルーズに歌うことを心がけると上手くいくと思います。
     
  • 5.愛と祈りの世界へと
    あの3.11を経験した少年、少女だった子供もやがて成長し、大人になった視点に変わります。冒頭部のピアノは第2楽章の混沌としたイメージの再現です。それらが「深い眠り」で見た夢に繋がります。8分の9拍子、スラーは記譜されていませんが、なめらかに。28小節から音楽が前進して動き出します。36小節の「安らかに眠りたまえ」は祈りを込めて。40小節からのピアノソロは美しく。ここはピアニストの腕の見せ所です。51小節(ヘ長調)~59小節(変イ長調)にかけての転調は感動的に。65小節「生きている」「生きてゆく」は決意の表れですから、しっかりと言葉にして。79小節のソプラノによる「故郷」の旋律は、どこか遠くから聞こえてくるように。86小節からア・カペラの響きを生かしましょう。90小節にある4分休符の間を大切に。96小節からは第1楽章の幸せだった思い出(旋律)が再び調性を変えて歌われます。115小節からのヴォカリーズは輝かしく。それこそ「愛と祈りの世界」を表現してください。121小節目に合唱パートはありませんが、ここも全音符で伸ばしてピアノと同時に終わらせるというのも一つの方法だと思っています。

  • 6.今、私にできること
    この曲のみ最初は単独で作曲しましたが、この組曲化にあたりエピローグとして構成、配置しました。出だしの「いま」の6度音程は意外と難しいので、納得がいくまで練習を。その後の4分休符は大事な「間」です。休符は単なる休みではなく、「休符」という演奏をしなければなりません。絶妙な間を作り上げてください。25~26小節にあるヴォカリーズの「la」は特になめらかに。26小節3拍目にフェルマータが付いているので、次の4拍目のMeno mossoの入りが難しいですが、ここは指揮者の腕の見せ所。ここで何かしら合図などをあらかじめ決めておき、歌い手に歌いだすタイミングを導いてあげることで、この部分はクリアできるかと思います。

解説:SEIGI